第3話 / 全71話

第3話

もしかすると。後宮の女たちは、あまりにも暇だったのかもしれない。

なぜなら――俺と蘇貴妃の「禁断の恋」を、全力で応援し始めたからだ。

息子が東宮に泊まる。それだけのことなのに。彼女たちの目には――「愛に身を焦がす貴妃の一途な恋」に見えるらしい。

俺が息子にお菓子を食べさせる。すると。周囲の妃嬪たちは手を握りしめ、頬を赤らめる。

「尊い……」

「甘すぎます……」

などと、勝手に盛り上がっている。

息子が東宮で騒ぐ。ただそれだけのことなのに。彼女たちは勝手に脳内で物語を作り上げ、顔を真っ赤にしていた。

中には。こっそり恋愛小説を書き始める宮女まで現れた。タイトルは――

『東宮の禁じられた恋』 『深宮に囚われた愛』 『毎夜、東宮へ通う貴妃』

そして。なぜか、それらの作品は異常なほど売れた。挙げ句の果てには。太后様まで三冊も所蔵しているらしい。

ある日。俺が太后への挨拶に向かった時のこと。部屋に入った瞬間。見てはいけないものを見てしまった。

太后様が――こっそり恋愛小説を読んでいた。しかもタイトルは。『貴妃、身重の身で愛する人のもとから逃走する』だった。

「…………」

いや。待ってほしい。どこから突っ込めばいい?

さらに。妃嬪たちはついに、自分たちで組織まで作り始めた。その名も――「皇太子&蘇貴妃CP応援会」

目的はただ一つ。俺たちの恋を全力でサポートすること。彼女たちは毎日のように会議を開いている。

議題は。後宮の権力争いでもなければ。派閥争いでもない。話している内容は――

「今日、太子殿下は貴妃様をご覧になった?」

「蘇貴妃様はこっそり太子殿下を訪ねた?」

「皇帝陛下は異変に気づいていない?」

そして。もっとも恐ろしいことに。彼女たちは本当に「物語を進めよう」としていた。

例えば昨日。俺が御花園で休んでいると。淑妃が偶然を装って通りかかった。そして。

「まあ、大変」

と言いながら。なぜか蘇貴妃の外套を俺の肩にかけ。そのまま何事もなかったかのように去っていった。

また今日。賢妃が一箱の菓子を届けてきた。そして、わざわざこう言った。

「これは蘇貴妃様が心を込めて作られたものです」

嫌な予感しかしない。箱を開ける。すると――中には小さな文字で一言。

『太子哥哥、早く帰ってきてね』

と書かれていた。

「…………」

だが。本当に恐ろしいのは、彼女たちではなかった。一番警戒すべき相手は――皇帝だった。

最近。父上の態度が変わった。

以前の彼は。高い場所から俺を見下ろし、「未来の皇帝として相応しいか」確認するような視線を向けるだけだった。

だが。最近は違う。俺を見る時間が明らかに長くなった。そして――何も言わない。静かすぎる。まるで。何かを観察しているようだった。

例えば今日の朝議。兵部が北疆の軍事情勢を報告した後。父上はいつものように判断を下す……はずだった。しかし。突然。全く関係のないことを聞いた。

「太子は昨日、何をしていた?」

朝廷中が静まり返った。俺も一瞬、言葉を失った。慌てて立ち上がる。

「……水利に関する資料を整理しておりました」

皇帝は頷いた。

「そうか」

それだけだった。だが。その視線は、いつまでも俺から離れなかった。背筋が冷たくなるほどに。

朝議が終わった後。父上は初めて俺を一人だけ残した。

「太子、残れ」

心臓が跳ねた。来た。ついに来た。

御書房の中は静まり返っていた。皇帝は奏折を読み続ける。俺はその場に立ったまま、動くこともできない。空気が。張り詰めた弦のようだった。

長い沈黙の後。突然。父上が口を開いた。

「最近、宮中が……随分と賑やかだな」

俺の心臓が大きく跳ねた。まさか。気づいたのか?蘇貴妃とのことを……?俺はすぐに跪いた。

「父皇。息子に罪がございます」

皇帝は少し間を置いて。顔を上げた。

「お前に、何の罪がある?」

「…………」

いや。違うだろ。今の流れは絶対に何か知っている人の言い方だっただろ。

皇帝は朱筆を置いた。そして。ゆっくりと立ち上がる。一歩。また一歩。俺の方へ近づいてくる。遅い。だが。妙な圧迫感があった。

そして。俺の前で足を止めると。突然。手を伸ばした。そして。俺の衣の襟元を整えた。動きはとても優しい。むしろ。少し近すぎるほどだった。

「太子」

「最近、忙しいのか?」

俺の体が固まった。顔を上げることができない。

「父として、少し気になっただけだ」

皇帝の声は低く、静かだった。

「……疲れているように見える」

俺の頭の中で警報が鳴り響く。違う。これは心配じゃない。これは――探りを入れている。絶対にそうだ。

「息子は問題ございません」

「お気遣いいただき、ありがとうございます」

俺はすぐに頭を下げた。すると。皇帝は小さく笑った。

「そうか」

「ならば、よい」

そして。何事もなかったかのように。父上は机へ戻り、再び奏折を読み始めた。まるで。先ほどの出来事など。最初から存在しなかったかのように。

俺だけが。背中に冷たい汗を感じていた。

(父上……) (本当に、何も知らないんだよな?)