第1話 / 全17話
第1話
「…… っ!」
藤宮晶は、私の身体の上で「必死に」上下していた。耳まで真っ赤に染まり、端整な顔も強張っている。
罰ゲームでペア腕立て伏せを十回やらされているだけなのに、そこまできついもの? 彼のプライドを傷つけないよう、私はその動きに合わせて二度ほど声をかけた。
「頑張って!」
その瞬間、藤宮の身体がびくりと強張った。次いで全身から力が抜け、そのまま私の上へ重たくのしかかってくる。まるで引き寄せられたかのように、色気を帯びた唇が私の唇にぴたりと重なった。
錦ヶ丘で進めていた案件を立て続けに奪われ、チーム内には不満が広がり始めていた。
「チーフ、星輝グループの社長に恨みでも買ったんですか? このままじゃ、私たちもう後がないですよ」
「ったく、向こうの社長自ら乗り出してくるなんて、よっぽど根深い因縁があるんじゃないか?」
「でも、まだ望みがないわけじゃありませんよ。チーフがちょっと色仕掛けを使って、星輝の社長を落としてくれれば……私たちも一発逆転できるかもしれません」
錦ヶ丘は星輝グループのお膝元だ。そして、その星輝グループの社長である藤宮晶は、私の宿敵でもある。
私が錦ヶ丘に来たと知ってからというもの、それまで東亜テクノロジーなど相手にもしていなかった星輝グループが、ことあるごとに私たちの邪魔をするようになった。藤宮に至っては、私――凛堂紗奈が担当する案件には、必ず勝負を仕掛けるとまで言い放ったのだ。
ただし――
私があいつと一夜を共にするなら、話は別らしい……。
まったく、子供じみているにもほどがある!
もちろん、これが私をからかうために藤宮が仕掛けた、くだらない悪ふざけにすぎないことはわかっている。そもそも、たとえ同じベッドで寝たところで、相手はゲイだ。私に何ができるというのだろう……。
四年間の留学を終えて帰ってきたというのに、少しも大人になっていない。それどころか、以前にも増して意地が悪くなっている。
子供の頃の、あんなくだらない出来事ひとつを、何年も根に持つことないじゃない!
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