第2話 / 全23話

第2話

スマホをひっつかみ、勢いよくドアを開けた。

その瞬間、私は目を疑った。

目の前にいた蓮が、「私」の細く白い指でシルクのネグリジェの裾をつまみ上げ、胸元をじっとのぞき込んでいた。

しかも――。

私の顔をした蓮が、真剣そのものの表情で服の中を確認している。

一気に血の気が引いた。

「蓮! 何やってるの!?」

ほとんど悲鳴だった。

蓮はゆっくり顔を上げる。

ほんのり頬を赤く染めた「私の顔」で、あまりにも当然のように言った。

「新しい体に慣れてるだけ。」

「……は?」

「自分の体なんだから、ちゃんと知っておかないとだろ?」

そう言いながら、蓮は私を頭のてっぺんから足先まで、じっくり眺めた。

そして、平然と続ける。

「君も俺の体、よく見ておけば?」

「好きなだけ見ていいよ。俺は気にしない。」

「…………」

何、この男。

羞恥心ってものがないの!?

思わず言葉を失った。

けれど、すぐに自分がここへ来た目的を思い出す。

私はニヤリと笑い、スマホを高く掲げた。

「へぇ?」

「いつも口では『私のことなんか嫌い』って言ってるくせに、裏では私の写真を見ながら、あんなことしてたんだ?」

これでどうだ。

絶対に動揺する。

そう思ったのに――。

蓮はまったく恥じる様子がなかった。

むしろ余裕たっぷりにベッドのヘッドボードへ背を預ける。

「その写真、結構よく撮れてるよな。」

「こういう時に使うには、ちょうどいい。」

「……っ」

私の顔から、私の知らない声が聞こえてくる。

気だるくて、妙に色っぽい。

いわゆる、お姉さんっぽい声。

自分の顔でそんな声を出されると、ものすごく違和感がある。

というか、全身に鳥肌が立った。

そして、さらに最悪なことが起きた。

蓮は私の下着を手に取ると、私の目の前で何のためらいもなく身につけ始めた。

「これで合ってる?」

妙に素直な顔で聞いてくる。

「こういうの、初めてだからさ。」

「…………」

止めたい。

今すぐ止めたい。

なのに、蓮はまるで気にする様子もなく、私を見てぽつりと言った。

「……それにしても。」

「君の体って、思ってたよりスタイルいいんだな。」

「…………」

何を言ってるの、この男。

「ちょ、ちょっと! やめて!」

慌てて止めようとした。

けれど。

私の体――つまり蓮の体が、なぜか勝手に小さく震えた。

「……美咲。」

蓮が、私の声でくすりと笑う。

「鼻血、出てる。」

「え?」

私は反射的に鼻へ手をやった。

指先が、ぬるりと濡れる。

恐る恐る見ると――。

赤い。

「……うそ。」

本当に鼻血だった。

「だ、誰のせいだと思ってるのよ!」

私は顔を真っ赤にして叫んだ。

「朝っぱらから、そんなことしてるからでしょ! 体に悪いんだから!」

全部、蓮のせい。

そういうことにしておく。

私は八つ当たり気味に言い放つと、百八十七センチもある大男の体を引きずるようにして、自分の部屋へ逃げ帰った。

ドアを閉める。

背中を預ける。

そして、そのままズルズルと床にしゃがみ込んだ。

「…………最悪。」

恥ずかしい。

死ぬほど恥ずかしい。

……お願いだから、誰にも見られてませんように。